東京地方裁判所 昭和41年(行ク)23号 決定 1966年6月09日
申立人 中央労働委員会
被申立人 日本信託銀行株式会社
主文
被申立人は、被申立人を原告、申立人を被告とする当庁昭和四〇年(行ウ)第九八号行政処分取消請求事件の判決確定にいたるまで、申立人が中労委昭和三八年(不再)第一一号不当労働行為再審査申立事件について昭和四〇年七月一四日付をもつてした命令中東京都地方労働委員会が都労委昭和三六年(不)第二七号および第四〇号各不当労働行為申立事件についてなした救済命令によつて被申立人に対し小早川皓三郎および白倉高を昇格前の原職に復帰させるよう命じた部分に関し、再審査申立棄却の命令に従わなければならない。
理由
一、東京都地方労働委員会が日本信託銀行労働組合(以下「組合」という。)、被申立人間の都労委昭和三六年(不)第二七号および第四〇号各不当労働行為申立事件について救済命令(主文2項「被申立人は、小早川皓三郎および白倉高を昇格前の原職に復帰させ、同人らが解雇の日から原職に復帰するまでの間受けるはずであつた賃金相当額を支払わなければならない。」同1および3項、略。)を発したこと、被申立人が申立人に対し右命令の再審査を申立て、申立人が右申立(中労委昭和三八年(不再)第一一号不当労働行為再審査申立事件)につき昭和四〇年七月一四日付をもつて主文掲記の命令(主文「本件再審査申立を棄却する。」以下「本件命令」という。)を発し、同命令が同年八月五日被申立人に交付されたことは甲第一号証の一、二、同第二号証の一により疎明をえた。また被申立人が本件命令を不服として、その取消を求めるため当裁判所に訴を提起し、現に当庁昭和四〇年(行ウ)第九八号行政処分取消請求事件として係属していることは当裁判所に明らかである。
二、本件命令書(甲第一号証の一)によれば、申立人は組合の救済申立資格を肯定したうえ、被申立人が小早川皓三郎、白倉高に対し、昭和三六年六月一日にした昇格発令及び同月一四日付をもつてした解雇を、いずれも不当労働行為と判定して、本件命令を発し被申立人に対し右両名の昇格前の原職に復帰させること等を命じた初審命令を維持したことが明らかであるが右判定および裁量は、右命令書の記載に徴すれば一応相当と認められる。
三、ところで、甲第二号証の二、同第三号証の一ないし三、同第五号証によれば、組合は、前記不当労働行為救済申立当時から、終始団結権の回復維持のためには、小早川、白倉両名の即時原職復帰が不可欠であるとの態度を固持しているものであるが、右両名は、組合においては正、副執行委員長の地位にあつて、組合活動の中心的な役割を果たしている一方、被申立銀行においても、前記昇格発令当時支店長代理あるいは本店課長なる中堅行員の地位にあつたものであること、しかるに、組合は小早川、白倉両名の前記解雇後、組合員の脱退、新労働組合の結成により現在被申立銀行における少数組合になつていることが一応認められるから、右両名が解雇によつて職場から排除されて以来既に五年にならんとしている現在では、組合の組合員の心理的動揺が生じやすく、ひいては組合の団結維持に相当の困難が伴う事態にあることはみやすいところであつて、甲第四号証の一、二によつても、右疎明を動かすに足りない。
してみると、右両名の原職復帰は組合の団結維持のための組織活動上緊急の必要があるものであつて、本案判決の確定を待つてなされたのでは、既に遅きに失する虞れがあると認めるのが相当である。
四、なお、甲第二号証の一、同第四号証の一、二によれば、本件命令交付の後の昭和四〇年一〇月二〇日被申立人と組合との間に本件命令の維持した初審命令の主文2項にいう小早川、白倉両名に対する賃金相当額の支払に関する前記行政訴訟事件の判決確定に至るまでの協定が締結され、その旨の文書が取り交わされ、右両名も右協定に異議がないとの文書を被申立人に差入れ、その後、被申立人が右協定にしたがつて、右両名に賃金相当額を支払つていることが一応認められる。
しかし、右疎明方法中には、右協定が右両名の自宅待機すなわち現実には不就労を前提とし、被申立人と組合との間には、その旨の諒解が成立していたことを窺わせる部分があるが、右は甲第二号証の二、同第三号証の一ないし三、同第五号証と対比して、いまだ右事実の疎明とするに足らず、この点については結局疎明がないのである。
五、よつて、労働組合法二七条七項に従い、主文のとおり決定する。
(裁判官 駒田駿太郎 高山晨 田中康久)